どくどく記 〜読書と独学の記録〜

読んだ本の記録と、考えた事のアウトプット。

『諦める技術』流行する「自分磨き」へのアンチテーゼ

 

苦しくなったら立ち止まる

たとえ「意識高い系」と言われようと、成長するのは好きだ。

知識を増やしたり、技能の練習をしてそれを獲得したり、あるいは、馴染みのない考え方について学んで、それを自分の思考法の中に取り入れたり。そのようにして、少しでも前進している感覚は、楽しい。

だが、時々立ち止まる。「これでいいのだろうか?」と思う。順調に前に進んでいるはずなのに、なぜか「苦しい」と感じる時がある。 

 

そんな時、参照する本がこれだ。 

(120)諦める技術 (ポプラ新書)

(120)諦める技術 (ポプラ新書)

 

  

「雀鬼」が社会について語った本

裏麻雀の世界で名を馳せた「雀鬼」こと桜井章一さんの本だ。

彼は、経験に裏打ちされた独自の観点から、現代の日本社会を眺め、それに対する違和感を本にして世に送り出している。

 

例えば、以下の一節。

そもそも会社組織はどこでも多少ブラックで理不尽な体質を持っているものだ。というのは経営者の論理、従業員の論理、取引先の論理、消費者の論理はみなそれぞれ違う軸足を持っているからだ。当然それが混じり合うところではさまざまな矛盾や不合理なものが生まれるに決まっている。(中略)

最近は仕事を通してさまざまなことを学び、自分を成長させようと一生懸命努力する人がたくさんいる。つまり「自分磨き」だ。だが、仕事にそもそも問題があれば、自分磨きは自分をひたすら消耗させる行為でしかない。(P.117-118)

 

注目すべきは「経営者の論理」という点だ。

かつてマルクス主義思想が力を持っていた間は、「経営者の論理」と「従業員の論理」が違うのはごく当たり前のこととして意識されていたらしい。*1

しかし、その思想がほぼ消え去った今、従業員までが「経営者目線で考えろ!」と強いられている。

そして、「働くのに必要な能力を身に付けなければ職を失う」という恐怖を掻き立てられ、自己啓発や自分磨きが流行り、みんな頑張るけれども、だんだん息苦しくなっていく……。

僕が時折直面する「苦しさ」も、この類のものなのだろうか。

  

『LIFE SHIFT』の論理は正しいが

一世を風靡している『LIFE SHIFT』も、「能力を高めないと生きていけない!」と不安になる類の本だ。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 

 

この本の内容は、

  • 今生きている人の多くは100歳まで生きる。
  • ところが、現在のライフプランは100年生きることを想定して作られていない。
  • 安心して100年生きるために、複数のキャリアを持つことが必要だ。
  • 複数のキャリアを持つためには、休暇返上で自分磨きを頑張ろう。

というものだ。

この論理は基本的に正しい。仮に100歳まで生きることになるとして、従来の平均的ライフプランでは、どうがんばっても100歳まで平穏に生きることは不可能だ。

であれば、何らかの方法でより長くお金を稼ぎ続ける必要がある。そして、そのために「新しい知識を学ぶ」などのスキルアップが必要になる。……

  

しかし、そもそも「頑張って能力を高めなければ安心して生きていけない社会」自体に問題があるとしたら、どうなのか。

そのような社会を変えようと、革命によって力づくで全てをひっくり返そうとしたのが、いわゆる「共産主義」というやつだった。

だが、僕は革命なんてごめんだ。*2

それでも、仕事はそこそこに、みんなが悠々自適にのんびり暮らせる社会になればいいな、と思うことはある。

 

スキルアップの話以前に、「自分磨き」や「競争」で人間が疲弊してしまう社会自体を変える方向に考えていくのも一案だと思う。

もしかすると、このような考え方を「社会主義」と呼ぶのかもしれない。一般的にイメージされる「反日サヨク」とは、また違ったものだ。

 

ちょっと話が逸れてしまった。

 

自然な欲望を歪める論理 

とはいえ、「能力を高めたい」あるいは「人と競い合って、勝ちたい」というのは、人間の自然な欲望だと思う。だからこそ、スポーツが娯楽になる。

だが、そのような人間の欲望をうまく利用して、私的な利益を得ようと誘導しようとする人がいる……のかもしれない。

つまり、「向上したい」という自然な欲望に、「向上しなければ職を失うぞ!」という「不安」を付け加えることによって、従業員が経営者にとって有益な人材となるようにコントロールしているのではないか。

ただし、個人ではなく集団の総意によって。かつ、意識的にではなく無意識的に。 

この辺りは、頭の中に言いたいことはあるのだが、まだうまく説明できない。 

 

読書の効用:1人では思いつかない方向へ考えが進む

つらつらと、まとまりなく書いてみたが、僕は普段から「より良い社会とは?」なんて考えているわけではない。ぶっちゃけ、普段は目の前の仕事のことでいっぱいになっている。

しかし、本を読み、著者の言葉を受け止め、対話することで、思考の中に新しい観点が持ち込まれる。 この体験は、他の何にも代えがたい楽しいものだ。そして、時には役にも立つ。 

 

本を読むなら、自分と似たタイプの人を読むのもいいけれど、たまには「自分と全くタイプの異なる人の本」を読むのもいいと思う。普段使わない思考回路が刺激されて、思いもしなかった考え方に目を開かれることがあるからだ。

 

まとめ

現代日本で普通に働き、普通に生きていると、なかなか「社会全体」のことを考える余裕はない。あるいは、「社会の中にどっぷり浸かっている人」の言葉は、結局のところ、その社会の欠点を見いだせていないことも多い。

 だからこそ、普段は関わる機会のない「社会から距離をとっている人」の言葉を聞く意味がある。桜井章一さんも、その1人だと思う。

 

なんだか要領を得ない記事になってしまったが、ひとまずこんな感じで。

 

今回紹介した本

(120)諦める技術 (ポプラ新書)

(120)諦める技術 (ポプラ新書)

 

 

桜井章一さんの著作はこちらもおすすめ。

精神力 強くなる迷い方 (青春新書INTELLIGENCE)

精神力 強くなる迷い方 (青春新書INTELLIGENCE)

 

 

初めて買った桜井さんの本で、大学時代の「愛読書」だった。

「ミニマリスト」にかぶれた時、一度手放してしまったが、どうしても手元に欲しかったので書い直した。そんな大切な本の1つ。

 

途中で紹介した本

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 

 

記事中では批判的に取り上げたが、実際のところ、この本の主張の通りになるような気がする。僕自身も、この本のアドバイスに従ってキャリアプランを考えている。

 

(180816Th 加筆修正) 

 

*1:180816Th

マルクスとエンゲルスは『資本論』などの諸著作の中で、「資本主義的生産が行われるとき、資本家と労働者は、剰余価値をめぐって対立関係にある」と主張している。資本家つまり経営者と労働者つまり従業員は、構造的に対立することを避けられない、という点がポイントだ。対立する以上は、力の強い方が勝つ。普通、強いのは資本家の方だ。ゆえに、労働者は資本家に対抗するため「団結せよ!」ということになる。

*2:180816Th

「あらゆる極端は悪いのが通例であり、穏健な意見は行うのにいつもいちばん都合がよく、おそらくは最善であるからだ」(デカルト『方法序説』第三部)