どくどく記 〜読書と独学の記録〜

読んだ本の記録と、考えた事のアウトプット。

『勝つための情報学』は自己矛盾に陥っている

ここ数回の記事で、『勝つための情報学』という本に言及している。 

 

勝つための情報学 バーチャルからリアルへ (扶桑社新書)

勝つための情報学 バーチャルからリアルへ (扶桑社新書)

 

 

昨晩、読み終えた……というより読むのを止めた。

理由は、それ以上読む時間がもったいないと思ったからである。

本書の何が問題だったのか?

 

 

1 論理の重要性を説きながら論理矛盾を起こしている

著者は、情報を見ていく際に重要な要素の一つとして「論理学」を挙げている。

情報の粋を集めた「インテリジェンス」にもっとも必要なものは、私自身は、「リアルさ」もありますが、歴史だと考えています。(中略)

次に大事なのは、哲学や論理学や心理学、また地政学、美術学(美学)、数学や統計学、さらには神学を含めた宗教学などです。(P. 229)

 

論理学が大事である、と述べているにも関わらず、著者は、その同じ本の中で初歩的な「論理のミス」を犯している。

当該箇所を引用する。

「事実」(ファクト)があれば、何でも「正しい」と考えることは、情報の世界では必ずしも正しくありません。たとえ、事実が見えなくても、「正しい」ことはたくさんあるからです。(P. 64)

 

「おかしい」と感じていただけるだろうか。

 

著者はここで、

  • 「『事実』があるならば『正しい』」は誤りである。

と述べているのだが、実際には、

  • 「『正しい』ならば『事実』がある」は誤りである。

と書かなければならなかった。そうしなければ、

  • 「正しい」にもかかわらず「事実」がないことがある。

という二文目の「反証」が意味を持たなくなってしまう。

納得のいかない方は、ベン図でも書いて考えてみてほしい。

 

僕は、この時点で本書を真剣に読むことを放棄した。著者に対して胡散臭さを感じたからである。

それでも、一応はお金を出して買った本なので、最後までページをめくってみることにした。すると、またしても初歩的な間違いを発見したのである。

 

2 「シンギュラリティ」について典型的な誤解をしている

当該箇所を引用する。

2024年には、AIが完全に人間の能力を追い抜いてしまうという「シンギュラリティ」が起き「第4革命」と呼ばれる「情報革命」が起きるとされています。(P. 132)

 

人工知能の専門家によるシンギュラリティの定義は、以下である。

シンギュラリティというのは、人工知能が自分の能力を超える人工知能を自ら生み出せるようになる時点を指す。

(松尾豊『人工知能は人間を超えるか』P.202)

 

見比べれば分かると思うのでわざわざ解説はしないが、『勝つための情報学』の著者がシンギュラリティについて誤った認識を持っていることは明らかだ。自らの知識が正しいと思い込んで、わざわざ確認しなかったのであろう。明白な「誤報」と言って良い。

「誤報」とは、ほとんどは報じるべき側が行うべき基本的な確認作業を怠ったり、事実誤認によって行われるケースのどちらかです。(P. 18)

 

ブーメランである。

 

3 文法的におかしな文がある

指摘するのも阿呆らしいのだが、本書には小学生並みの文法ミスがある。

当該箇所を引用する。

 なぜ「情報」に日本人の神道の「誠心」が必要なのかというと、真実を得るためには、まず自分の心に素直さ(誠心)を持ち、民衆の心を掴み、相手に思いやりを持って、本当の気持ちを引き出すことが「真の情報」であるということだと私は思います。(P. 151)

 

よくある「途中でねじれてしまった文」である。こんな文章が金を取って流通しているということに驚かされる。扶桑社に校閲はいないのだろうか?

 

 

だが無価値な本ではない

論理矛盾、定義の確認漏れ、文法ミス……これらの欠点を抱え込んだ本書は、しかし「無価値」ではない。有用な知見を提供してくれることは間違い無いのである。それだけに、上述の欠点が非常に残念に思われるのだ。

本書の優れた点を具体的に挙げてみる。

 

(1)「6W2H1D」という観点

これは、情報伝達に必須の要素を表す略語である。普通言われるのは「5W1H」だが、本書ではさらに、

  1. what for(何の目的で)
  2. how much(いくら、どのくらいの規模で)
  3. doing or done(やっているか、あるいはやったか)

という3つの要素を導入することを勧めている。

whyとwhat forが被りそうな気がするが、これについては前者を「原因」、後者を「目的」と捉えれば良いだろう。

「規模」の要素は非常に重要だが、なぜか見過ごされがちである、という指摘は、現場経験者ならではの観点であり、納得させられる。

 

(2)情報の「三角測量法」という観点

情報の信頼性を確認する際には、1つの情報源に頼るのではなく、3つの情報源を使うよう、著者は勧めている。

情報確認の「鉄則」として、収集する情報を①「直接情報」、②「対立(敵対)者情報」、③第三者による「間接情報」に分けます。

そして、それにしたがって、情報を入手する取材、あるいはリサーチの対象を①当事者、②対立(敵対)者、③第三の関係者ーーという三つに区分けします。(P. 48-49)

 

今日ニュースになっていた小室圭さんの件で言えば、

  1. 当事者:小室さんの文書
  2. 対立者:母親の元婚約者の証言
  3. 第三者:留学先の大学関係者など

こんな風に情報源を分類できる。

方法自体は単純であるにもかかわらず、効果は大きいように思う。例えば「この報道は一方的すぎる」などと気がつけるようになるだろう。おそらく即効性もある。

 

 

以上のような優れた点も持ち合わせている『勝つための情報学』。僕はもう読む気がしないので読まないが、「部分的には使えるかもしれない」と思った方は、一読してみるのも良いと思う。

 

 

「論理」について学ぶなら定番はこの本。 

論理トレーニング101題

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